兜町大学教授の教え 無料メルマガ No.258 (2024年3月17日)



「中長期の日経平均株価の展望・
 金利と株価の関係・賃上げについて」


 いつものように、市況を展望します。
今回は、3月1日配信の「フーミー」で
予告したように、主に「日経平均株価の
中長期的な展望」、すなわち、
「年内は日経平均株価がどいう動くか」
について考えていきます。

 そしてさらに今回は、
・金利と株価の関係
・賃上げについて
という話題で書いていきます。これも
3月1日配信の「フーミー」の続きです。

 その前に、
「4月6日に早稲田大学で行う講演会」
について告知をさせて下さい。


[0] 「講演会」の告知です

 来る4月6日に、早稲田大学の高田
馬場キャンパスのエクステンション
センターにおきまして、講演会に登壇
いたします。

 開催時刻は、13時10分から16時25分です。
途中に15分の休憩を挟んで、3時間の講義
を行います。

 早稲田大学では、私の講義を初めて受講
なさる方も参加なさいますので、基礎的な
内容から始めて、多少応用的なことに
ついてもお話しします。
 この機に、基礎的なことを学び直したい
という方にオススメです。
 
 早稲田大学エクステンションセンターに
おきましては、過去に何度か登壇しており
まして、今年の1月27日も講演会に登壇
いたしました。その時の講義内容と重複
する部分もありますが、復習がてらに
お付き合いいただければと思います。

 私の講演会は、その都度、新しい情報
を加えながら、少しずつですが進化して
いますので、新しい発見をしていただけると
幸いです。
 そして、最新の市況展望についても解説
しますし、現在進行中の株高についても
株式投資歴37年のベテランの視座からの
解説をする予定です。

 また、還暦前後までに「お金の自由」を
手に入れるための考え方について、私の
現時点までの経験を交えてお話しすることで、
皆様のご参考になればと思っております。
 もちろん、老後資金の形成とその運用
という観点から、堅実で安全な株式投資の
具体的な手法についてもお話いたします。

 お申し込み、その他の詳しいことは、
こちら↓のサイトをご参照下さい。

https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/62835/

 すでに受付は開始されています。
 前回1月27日も、一番大きい教室が
ほぼ満席になりましたので、お早めに
お申し込み下さい。

 なお、お問い合わせは、早稲田大学の
エクステンションセンター様に直接お願い
いたします。


[1] 日経平均株価の展望
     (執筆日時:3月16日 22時)

(1) 過去1ヵ月間の日経平均株価の推移

 2月15日以降の日経平均株価の推移を
辿ってみます。
 2月15日の始値が「38,017円」で、
それ以降は、この水準よりも上で推移
して現在に至っています。
 2月16日にポンっと上がって、それから
3営業日の間は調整(小幅な下落)。その後
2営業日でポンっと上がって、その後の
3営業日の間は調整。
 その後、2営業後の3月4日に遂に
40,000円を突破しましたが、その後の
2営業日の間は調整して、それからまた
上昇して、3月7日に「40,472円」の
史上最高値を付けましたが、この日は
前場の早い段階で最高値を付けた後は、
引けにかけて1日で960円(2.4%)近い
大幅な下落を演じました。
 このように、1日の中で値幅が大きく
動いた時というのは、
「その日が当面の最高値か最安値になる
ことが多い」
のです。(今回の場合は、もちろん当面
の最高値です。)
 これは経験則によるものですが、かなり
よく起こることです。

 3月7日以降は、調整局面に移行して
いますが、今のところは2月15日の
「38,017円」を割り込んではいません
ので、自律調整の範囲であるといった
ところです。

 前回のこのメルマガで、

「遅くとも3月末〜4月上旬には
一旦は調整が入りそうです。
 それから先は、『業績次第』です。」

と述べましたが、その見解を継続します。
 現在進行中の「調整」が長引くのか、
早期に底を打つのかは、目先の金融政策
の動向もさりながら、やはり「企業業績」
と「インフレ」の行方が鍵を握ることに
なるでしょう。


(2) 日経平均株価の中長期的な展望

 先に結論を簡潔に述べてから、解説を
します。


<中期の予想>

・円高
 現時点における(特にアメリカの)金利動向
 から推察するに、夏には円高になるでしょう。
 これを素直に織り込めば、輸出企業の業績
 が悪化するので、本決算における予想利益
 は下振れ懸念もある。
 また、円高がある程度進んで、一定の水準
 を超えると、外国人の売りが始まるので、
 これも株価の頭を抑える要因。

・インフレ
 インフレはまだ当分止まらないでしょう。
 特に賃上げが進めば、インフレは加速
 します。
 ですから、中期的には円高(=株安)と
 インフレ(=株高)の綱引きになる。


<中期の予想への付言>

 株高が進む局面では、あたかも株高が
ずっと続くようなムードが蔓延しますが、
多くの場合、そうなった時が高値圏です。
 先行きには、株価にマイナスの要因も
あるということを忘れてはいけません。
 現に、日経平均株価は今月7日で一旦
上昇の勢いを緩めています。

 5月中旬に企業業績が出揃うまでは、
一進一退の展開になることが予想され
ます。


<長期の予想>
・インフレ政策が続く限り、趨勢的な
 株高は持続するでしょう。そのことは、
 過去11年の日経平均株価の推移を
 見れば明らかです。
 日経平均株価もNYダウも長期的には
 株高が必然なのです。
 企業が長期的に成長する限り、株価
 というのは、趨勢的な上昇をするもの
 なのです。


[2] 長期的なインフレトレンドに入った
  としても

(1) 長期的なインフレトレンド

 年足チャートにおける超長期的な推移
をみますと、日経平均株価は数年後か
10年後には、40,000円どころか、50,000円
や、それ以上にもなっていく、という
方向性が示唆されます。
 すなわち、経済成長と、それによる
インフレが進めば、それを反映するかたち
で、日経平均株価も上昇基調を続け、
超長期的には、
「40,000円どころか50,000円や、それ以上」
といったことも充分にあり得るということ
です。

 特に、日本政府は、政府債務の希釈化
を狙って、

・低金利に固執し続け、
・「貯蓄から投資へ」を国策にしています。

 つまり、国策的に資産インフレを創出
しているのです。ですから、超長期的には
株高になっていく可能性が高いのです。
 これは強気とか楽観的とかというのでは
なくて、日本政府がアベノミクス以降、
これまでにやってきたことを客観的に観た
上での論理的帰結です。

 ただ、たとえ日経平均株価が向こう5年
で40,000円どころか、50,000円になると
しても、(大本営発表ではない)実際の
物価が年率7%で上昇し続けたら、複利
の効果が働いて、5年後には「40%」の
物価上昇が起こってるはずです。
 そうしますと、今、定価で36,000円の
品物の値段も50,000円くらいになります。
(36,000円 × 1.40 = 50,400円)
 日経平均株価が36,000円から50,000円
に上がるのとともに、物価も36,000円
から50,000円に上がるということになる
のです。
から、
 日経平均株価の上昇とともに株式投資
で資産を増やしても、実質的な購買力は
トントンです。
 ですからこれからは、株式投資では
「儲ける」というよりは、「インフレ
負けしない」というのが本質的な意味
合いになるでしょう。


(2) 長期的なインフレトレンドの
  中にも下振れはある

 一方で、日経平均株価が超長期的に
50,000円やそれ以上になるとしても、
その間には比較的大きな下振れが起こる
こともあるだろうと考えています。

 戦後開所来70年の日経平均株価を
直線で結んでみますと、今はむしろ
その直線を上に放れていますので、
その反動で、今年の後半か来年には、
下振れすることも、しっかりと想定
しておかなければなりません。

 企業業績が(日経平均のEPSの値で)
仮に「2,500円」まで増益になったと
しても、「35,000円」くらいまでの
下落局面は充分にあり得る、と考え
られます。
(2,500円 × 14.0倍 = 35,000円
日経平均のPERの値が「14.0倍」
くらいになることは、よくあります。)

 すなわち、「経済成長とインフレ」
をベースにして、超長期では株価は
右肩上がりになると考えた場合でも、
その右肩上がりの途中には、比較的
大きな「陰の相場(下落相場)」が
形成されることも充分にある、と
いうことは肝に銘じておかなければ
ならないのです。


(3) 頼りになるのは、基本中の基本

 これからの日経平均株価の行方を
考えていく際に頼りになるのは、
基本中の基本である「日経平均の
PERの値とPBRの値」です。
 このメルマガでは、時折これらの
指標を観て参りましたが、これからは
それが一段と重要性を増すと考えて
います。
 これらの指標が羅針盤になります
ので、これらを注視しながら、日経
平均株価の適正な水準を考えていく
のが適切です。

 3月15日における日経平均のPER
の値は「16.45倍」です。これは、普通に
考えれば、充分に「高値警戒ゾーン」です。

 一方で、下に述べる、日本の金利や
賃上げの動向を見るにつけ、まだまだ
インフレが持続すると考えていますので、
インフレに呼応して企業業績が増益に
なれば、もっと高い日経平均株価が
示現することも長期的には充分あり得
ます。

 しかし、円高が進行した場合には、

・インフレに歯止めがかりますし、
・輸出企業の業績が伸び悩みます。

 ですので、上にも述べたように、
インフレ圧力を抑えるほどの円高が
起こるかどうか、すなわち、「インフレ
と円高の綱引き」によって、日経平均
株価の行方が決まっていくと考えられ
ます。

 現在は、やや投資ブームが過熱気味
ですが、株価決定の「基本のキ」は、
「企業業績」なので、それを忠実に
反映しながら、日経平均株価の行方を
見据えていくのが王道です。


[3] 金利と株価の関係

 金利と株価の関係につきましては、マクロ
経済学の教科書では、
「金利↓ = 株価↑」
「金利↑ = 株価↓」
となっており、これをこの通りに解説する
エコノミストが多いですが、正しくありません。

 現実の株式市場では、金利と株価の関係
は次のようになることがわかっています。
 これは1994年〜2024年までのアメリカの
「FFレート(金利)」と「S&P500(株価)」の
推移から導き出した客観的な事実です。


(1) 金利上昇(↑)局面

 マクロ経済学の教科書では、
「金利↑ = 株価↓」
となっていますが、これは正しくありません。
 「FFレート」が上昇する局面では、
「S&P500」はことごとく上がっています。
(1993年12月〜1995年3月・1999年1月〜
2000年7月・2004年6月〜2006年6月・
2015年12月〜2019年1月・2022年3月以降。)


(2) 金利下降(↓)局面

 金利の下降局面については、次の2つに
分けて理解しなければ正しくありません。

(2-1) 後追い的な金利の急降下の事例
(2-2) マイルドな利下げの事例

 それぞれについて簡潔に説明します。

(2-1) 後追い的な金利の急降下の事例

 ITバブル崩壊・リーマンショック・
コロナショックといった経済の急激な
悪化を後追いするかたちで金利を急降下
させた事例では、ことごとく
「金利↓ = 株価↓」
という、マクロ経済学の教科書とは、
真逆の反応が起こってきました。
(2000年12月〜2003年8月・2007年7月〜
2008年11月・2020年2月〜2020年4月。)

 これこそが、私が従来から述べてきた、
「FRBが公式に景気後退を認めたこと
による株安」の進行です。

 なお、金利が低いままの時期は、
ことごとく株高ですので、「利下げ」
ではなく、「低金利維持」は素直に
株高要因です。
「金利↓→ = 株価↑」
といったところです。
(2008年12月〜2015年10月・2020年5月
〜2022年2月。)


(2-2) マイルドな利下げの事例

 マイルドな利下げが起こった事例は
1995年6月〜1998年12月の一度しか
ないのですが、この時は株高になって
います。
 景気後退をソフトランディング
させるための利下げを行った場合には、
マクロ経済学の教科書どおり、
「金利↓ = 株価↑」
となるのです。

 そして、これからアメリカで起ころう
としている事態は、この「景気後退を
ソフトランディングさせるための利下げ」
です。
 ですから、5月以降にFRBがマイルド
な利下げを遂行していった場合、株価には
プラスの効果が出るということになりそう
です。


(3) まとめ

 要するに、金利と株価の関係については、

・低金利を維持している時期
と
・利上げをしているか、高い金利水準を
 維持している時期
と
・マイルドな利下げの時期

には株高が持続し、

・急激な利下げを行っている時期

に大幅な株安が起こる

というようにまとめることができます。

 なお、現在、

「利下げが後退するのを嫌気して、
株安になりました」

という解説をよく耳にしますが、これも
正しくありません。

 なぜなら、すぐ上でまとめたように、
・利上げをしているか、高い金利水準を
 維持している時期
と
・マイルドな利下げの時期

には株高が持続しているからです。
「利下げが後退する」のは、
「高い金利水準を維持している時期」
であるわけですし、近い将来に行わ
れるのは、「マイルドな利下げ」
でしょうから、いずれにしても、
「利下げが後退する」のは株安要因
にはならないのです。
 一時的には株価の下落が起こっても、
それはすぐに修正されるでしょう。

 ここでは、1994年〜2024年までの
アメリカの「FFレート」と「S&P500」
の推移を調べましたが、日経平均株価
の推移も、これにほぼ連動しています。


(4) 日本の金融政策

 週明けには、日銀政策決定会合があり
ます。
 そこでは、「マイナス金利の解除」が
発表されることでしょう。

 しかし、この「マイナス金利の解除」
には一定の「メッセージ性」はありますが、
逆に言えば、「メッセージ性しかない」
ので、日経平均株価への影響は限定的な
ものとなるでしょう。
「日米金利差」という為替を決定する
本質的な要素から考えれば、アメリカの
利下げが始まるまでは、円高が本格化は
しないので、「マイナス金利の解除」の
影響は限定的だと考えています。
「マイナス金利の解除」というのは、
市中銀行が日銀に預ける口座の一部に
対して適用されているものでしかなく、
実体経済にはほとんど影響を及ぼさない
からです。
 日経平均株価に対して本当に下落
圧力がかかるのは、個人や法人への
貸出金利が明確に上がり始める時だ
と考えています。そして、それは
もっとずっと先のことだと思います。


[4] 賃上げについて

 今年の春闘で、賃上げについて
満額回答やそれ以上の回答が続出して
5%以上の賃上げ率になったという
ことで、それを喜ぶ声ばかりが報道
されています。
 しかし、それは喜んでばかりいられる
ことではないのです。
 そこで、ここでは賃上げについても
考えてみます。

(以下の文章は3月1日に配信した
「フーミー」の原稿を加筆修正した
ものです。)

「賃上げがインフレに追いついていない」
という言説を、よく耳にするようになり
ました。
 しかし、今の日本における春闘での
「賃上げ待望論」には、いくつもの点で
認識の誤りがあります。それらは主に
次の4つです。

<1> そもそも賃金というのは、労使交渉で
  決めるべきものではなく、各人の
  労働生産性によって決まるものである。

<2> 賃上げは、さらなるインフレを呼び
  起こすので、イタチごっこになる。

<3> 賃上げがインフレに追いついていない
  という状況が起こった場合、本来は、
  賃上げではなくて、インフレ抑止に
  重点を置くべきである。

<4> 春闘で賃上げになるのは、一部の
  大企業だけである。

 それぞれについてコメントします。


<1> そもそも賃金というのは、労使交渉で
  決めるべきものではなく、各人の
  労働生産性によって決まるものである

 労働生産性が高い人であれば、おのずと
賃金は上がります。それが賃金というもの
の本質だからです。
 現に、優秀なプログラマーの年収が
非常に高いという報道もあります。

 そして、ここで私が意図する「労働生産性」
とは、本業で頑張ることもさりながら、副業
と運用をしっかりと行うことで高められる
ということも「労働生産性」に含めます。
 「労働生産性」というのは、本業で頑張る
ことだけではないのです。


<2> 賃上げは、さらなるインフレを呼び
  起こすので、イタチごっこになる

「物価が上がったから」といって、賃上げ
をすれば、それによって国民の購買力が
上がり、さらにインフレになります。
(これを、「デマンドプルのインフレ
といいます。)
 インフレのイタチごっこになってしまい、
インフレ・スパイラルを引き起こします。


<3> 賃上げがインフレに追いついていない
  という状況が起こった場合、本来は、
  賃上げではなくて、インフレ抑止に
  重点を置くべきである。

 物価が上がった場合には、賃上げで
対処するのではなく、「インフレ抑止」
で対処すべきなのです。そうしなければ、
<2>で述べたインフレスパイラルを起こして
しまいます。
 日銀の使命は「物価の安定」です。
借金王の政府と一蓮托生となって、
インフレ誘導政策(いつまでも金利を
上げない政策)をしている場合では
ないのです。
 また、日本の場合、インフレの素は、
外圧によるコストプッシュのインフレ
です。賃金が先に上がってインフレに
なっているのではありません。
 ですから、現在発生しているインフレ
は「ニワトリが先か、卵が先か」の議論
ではなく、明らかに「インフレが先」
なのです。ということは、インフレには
賃上げではなく、「インフレ抑止」で
対処しなければ、スパイラル(螺旋)現象
を引き起こすことになるだけです。

 ただ、日本政府が借金をしすぎて
しまっていて、「金利を上げられない国」
になってしまっているので、「インフレ
抑止」ができない国になってしまって
いるのです。
 そういう意味でも、行財政改革が
「待ったなし」なのですが、政治家と
国民は、その辺りをどう考えている
のでしょうか。


<4> 春闘で賃上げになるのは、一部の
  大企業だけである

 春闘の話題の中で、6%アップとか
の派手な数字が報道されますが、春闘
で賃上げになるのは、所詮、一部の
大企業だけです。
「中小企業にも、この波を波及させ
なければならない」と言葉だけでは
言っていますが、本当にそうなるか
どうかは、甚だ疑問です。
 大多数の中小企業は、そのようには
ならないでしょうから、貧富の差が
さらに拡大してしまいます。


 こういったことを勘案すると、イン
フレに対処するためには、株式投資に
よる運用が、従来以上に必須アイテム
となると考えられるのです。


<今回は以上です。>


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