兜町大学教授の教え 無料メルマガ No.264 (2024年8月12日)


「まずは正常な状態に回復することと、その後もリハビリ状態」


 非常に残念なことに、8月5日にブラック
マンデーが発生しましたので、今月のメルマガ
は少し早めの12日に掲載します。


[1] 市況展望(執筆日時:8月12日 15時)

(1) ブラックマンデー

 8月5日に東京市場でブラックマンデーが
発生してしまいました。
 日銀・植田総裁のタカ派発言とアメリカの
雇用統計の悪化が引き金となって、ドル円
レートが急激な円高となり、株価が大暴落
してしまいました。
 アメリカの雇用統計がいくらか悪化しても、
この規模の暴落は起こってきませんでしたし、
後述するように、今回のブラックマンデーは
日本固有の現象ですから、やはり主に、日銀・
植田総裁のタカ派発言が今回の大暴落の主な
原因であろうと推定しています。

 私は1987年10月に発生したブラックマンデー
の数ヶ月後から株式投資を始めていますので、
私にとっても、今回のような急落は初めての
経験です。
 1988年以降からの私の実体験では、1990年
の年初から始まったバブル崩壊や、リーマン
ショック・東日本大震災・コロナショックと
比べても、下落の速度と下落「率」の点で、
今回の大暴落は最速・最大です。

 そして、いつも述べているように、株式
投資というのは、「投資」ですから、「額」
ではなくて「率」で考えないといけないの
です。
 8月5日に発生したブラックマンデーは、
下落の額は「4,452円」でしたので、「額」
の視点では過去最大ですが、「率」では、
「1日で12.4%」なので、1987年のブラック
マンデーの時の「1日で15.6%」と比べたら、
今回のブラックマンデーは、1日の下落率
としては「史上2番目」です。

 しかしながら、1987年のブラックマンデー
を経験していない、私を含めたほとんどの
個人投資家にとっては、今回の下落率は、
1日の下落率としては過去の経験上、最大
です。


(2) 今回の大暴落は、日本だけのブラック
  マンデー

 今回の大暴落は、日本だけのブラック
マンデーです。東京市場は激烈な下落に
なりましたが、NYダウはあまり大きな
下落にはなっていません。
 日銀・植田総裁のタカ派発言に端を
発して、為替が急速に円高に振れ、円
キャリートレードの巻き返しが起こって、
NY発ではなく、東京発で大暴落が
起こったのです。

 7月31日の終値を起点とした下落率を
日米で比較してみますと、次のように
なっています。

<1> 7月31日の終値 → 8月5日の最安値

・日経平均株価の下落率−− 20.3%
・NYダウの下落率−−−−  5.7%

<2> 7月31日の終値 → 8月9日の終値

・日経平均株価の下落率−− 10.4%
・NYダウの下落率−−−−  3.3%
(これは底値からの戻り具合を意味します。)

<3> 直近の高値 → 8月5日の最安値

・日経平均株価の下落率−− 26.6%
・NYダウの下落率−−−−  6.9%


 このように、数値化してみると歴然と
判明するのですが、NYダウの下落は
「通常の下落程度」で、日経平均株価は
「猛烈な下落」です。
 ですから、今回の大暴落は、日本だけ
のブラックマンデーだということなの
です。


(3) 今後の日経平均株価はどうなるのか?

 最も気になる肝心なことは、
「今後の日経平均株価はどうなるのか?」
ですね。
 このことを考えるに当たっては、少なく
とも

<1> 為替の要因
<2> アメリカの景気後退
<3> 日本の企業業績の行方
<4> アメリカの大統領選の行方

といった要因を考慮に入れなければ
なりません。

 それと、今回のブラックマンデーで
日経平均株価は、「複雑骨折」をして
しまいましたので、当分はリハビリが
必要ですし、全治するには何ヶ月も
かかるでしょう。
 ですから、急落前の39,000円前後の
水準まで戻るには、少なくとも3ヶ月
程度、長ければ半年以上の時間がかかる
でしょうし、その期間における上記の
<1>〜<4>の要因次第では、急落前の
水準まで戻らないこともあり得ます。

 ただし、急落前の水準までは戻ら
ないと考えるのは、かなり悲観的な
予測に基づくことであって、通常の
状況であれば、上の<4>のアメリカの
大統領選までの3ヶ月くらいで、
「あるべき水準」に回帰していく
であろうと考えています。
 この「あるべき水準」については
下の<5>で考察することとしまして、
まずは上記の<1>〜<4>の要因について
考えていきます。


<1> 為替の要因
 ドル円レートについては、多くの
要因が複雑に絡みますので、予想は
困難なのですが、これまでの相場と
今後のアメリカの利下げを織り込んで
想定しますと、大きなレンジとしては
「135円/ドル〜155円/ドル」の範囲
で推移するのではないかといった
ところでしょう。
 ただし、日米の金利差が想定以上に
大きく縮小すれば「130円/ドル」を
割り込むこともあり得ますし、日本で
インフレが加速すれば、再び「160円
/ドル」に向かうこともあり得ます。
 また、トランプ候補が当選して、
インフレ政策が想定されれば、これも
円安・ドル高要因です。

 過度な悲観と楽観を排除しつつ、
大ざっぱに考えると、「135円/ドル
〜155円/ドル」の真ん中を採って、
「145円/ドル」を想定為替レートと
ここでは考えておきます。
 また、日本のインフレが進行する
ことを考慮に入れると、「150円/
ドル」を想定すべきかもしれません。


<2> アメリカの景気後退
 これは、これからある程度進む
でしょう。
 ただ、FRBはソフトランディング
政策を粛々と進めていますので、この
ことによる負の影響は、あまり大きく
ならずにすむ可能性があります。
 ただし、日本企業への負の影響は
ある程度は避けられないと考えられ
ます。


<3> 日本の企業業績の行方
 これについては、現時点で第1四半期
の決算は出揃っており、日経平均のEPS
の値は「2,427円」となっていて、過去
最高の水準です。
 しかしながら、日経平均株価は「現在」
のEPSの水準ではなく、「将来」のEPSの
値をいち早く織り込もうとします。
 そして、アメリカが一定の景気後退に
向かうということを前提にすると、この
「将来のEPSの値」は減少方向にならざる
を得ないでしょう。


<4> アメリカの大統領選の行方
 マスコミの報道は、「ハリス優勢」に
傾きます。それはアメリカの巨大資本家
にとって、トランプ候補は「不都合な
存在」だからです。
 ですから、このことを考慮に入れながら
大統領選の行方を考える必要があるのです
が、選挙の結果を予測するのは非常に困難
です。

 私は、普通に考えれば、「トランプ勝利
の可能性が高い」と考えていますが、巨大
資本家がトランプ候補に何をするかが
詠めないので、結果がどうなるのかは、
やはり不透明です。
 ただ、現時点で考えますと、トランプ
候補が当選すれば、株価にはプラスに
作用するでしょう。


<5> あるべき水準
 さて、日経平均株価の「あるべき水準」
ですが、これがどのくらいの値になるのか
については多角的に考察する必要があります。

・PERの面から
 大暴落前までの今年7ヵ月間のPERの値
の平均値は「16.54倍」です。そしてこの
「16.54倍」という値は、「株式の益回り
が6%(=16.67倍)」という値に近いので、
一定程度の合理性を有しています。
 ですから、ここでは、日経平均のPERの
「あるべき水準」を「16.67倍」と想定
します。

 次に、日経平均のEPSの値について考え
ます。
 上述のように、現時点では「2,427円」
ですが、アメリカの景気後退を前提に
した場合には、この値は下方に圧力を
受けます。
 一方、日本でインフレが進めば、この
EPSの値は上方に圧力を受けます。
 ですから、どうなるのかは一概には
いえないので、これについては、過去
1年間の平均値を用います。過去1年
間の日経平均のEPSの平均値は「2,262円」
です。
 第2四半期における日経平均のEPSの
予想値を「2,260円」と想定すれば、
アメリカの景気後退をも織り込んだ
若干控えめの値になります。
 このように想定しますと、PERの面
からは、これから3ヶ月後辺りの日経
平均株価の「あるべき水準」は、

 2,260円 × 16.67 = 37,672円

ということになります。


・PBRの面から
 大暴落前の7ヵ月間の日経平均の
ROEの平均値は「8.9%」です。
 そして、日経平均のPBRの値は、
向こう3年分のROEを織り込んでいる
と考えるのが理論的には、ほぼ妥当
です。
 このように考えますと、日経平均
のPBRの値は、「1.089 の3乗」と
いうことになり、「1.29倍」となり
ます。
 この「1.29倍」というのは、大暴落
前の7ヵ月間の日経平均のPBRの平均値
である「1.48倍」よりはだいぶ控えめな
値です。

 現時点における日経平均のBPSの値は
「27,800円」であり、この値は3ヶ月後
には若干増えて、「28,000円」を超える
と考えられます。
(日経平均のBPSの値は、リーマンショック
級の大不況が来ない限り、時間と共に
増加する性質のものです。)

 このように想定しますと、PBRの面
からは、これから3ヶ月後辺りの日経
平均株価の「あるべき水準」は、かなり
控えめにみて、

 28,000円 × 1.29 = 36,120円

ということになります。

 また、日経平均のPBRの値を、この
「1.29倍」と、(大暴落前の7ヵ月間
の日経平均のPBRの平均値である)
「1.48倍」との中間値である「1.39倍」
と想定すると、

 28,000円 × 1.39 = 38,920円

となります。


・外国人投資家の視点から
 日経平均株価について、外国人投資家
の視点から考えてみます。今回の大暴落
は、外国人投資家によるパニック売りの
色彩も濃厚だったからです。
 上の<1>で述べたように、これから
3ヶ月後辺りのドル円の想定為替レート
を「145円/ドル」(または「150円/ドル」)
とします。
 そして、ドル建ての日経平均株価の
チャートを観ますと、ドル建てでは
日経平均株価の「あるべき水準」は
「250ドル前後」です。

 このように想定しますと、外国人
投資家の視点からは、これから3ヶ月
後辺りの日経平均株価の「あるべき
水準」は、

 250ドル × 145円/ドル = 36,250円

となります。

 なお、少し強めに観て、「150円/ドル」
とすると、

 250ドル × 150円/ドル = 37,500円

となります。


<5-2> あるべき水準 〜まとめ〜

・PERの面から

 2,260円 × 16.67 = 「37,672円」

・PBRの面から

 控えめにみて、

 28,000円 × 1.29 = 「36,120円」

 標準的には、

 28,000円 × 1.39 = 「38,920円」

・外国人投資家の視点から

 250ドル × 145円/ドル = 「36,250円」

 少し強めに観て、「150円/ドル」とすると、

 250ドル × 150円/ドル = 「37,500円」


<まとめ>
 以上のように、日経平均株価のあるべき
水準は、

「控えめにみて、36,120円」から
「標準的にみて、38,920円」

のレンジに収斂していくのではないかと
考えられます。このレンジの中庸を得た
値は「37,500円前後」であり、これは
「外国人投資家の視点から」の「150円
/ドル」の値に符合します。


 今回のような大暴落があった後には、
大地震の後の余震のような余波が残り
ますので、ボラティリティが高い状態
が当分続きそうですが、

・この大暴落が、世界的な大恐慌による
 ものではないこと
・2016年のトランプショックの時のような
 1日だけの急落で、翌日には大部分が
 戻っていること

を勘案しますと、時間の経過とともに、
ここで吟味したような「あるべき水準」
に戻っていくであろうと考えています。

 以上のようなことから、「今後の日経
平均株価はどうなるのか?」については、
8月9日現在の日経平均株価の水準が
「35,025円」ですので、余震のような
上下変動を伴いながらも、時間の経過と
ともに「37,500円前後」に向かって
緩やかに上昇していくというのが、理論
的に妥当な方向性であろうと考えています。

 また、日本のインフレが進行したり、
企業業績の好調が持続したりすれば、
大暴落前の「39,000円台」への回復も
あり得ます。


<6> 地震

 現在、南海トラフ地震の注意報が発令
されています。
 現時点において、最も懸念されることは、
「泣き面に蜂」の大地震の発生です。

 一方で、希望的観測も含めて、敢えて
述べますと、地震の予知は、まだ不可能
に近いと思いますし、発生確率が相対的
に上がったとは言っても、もともとの
発生確率は、(たとえばかなり悲観的に
20年〜30年に一度としても、)およそ
「1万分の1」、すなわち文字通りの
「万が一」であって、その確率が10倍に
なったとしても、依然として「千分の1」、
すなわち「せんみつ(千に3つ。=
「ほとんどない」のたとえ)」の3分の1
程度の確率でしかないのです。

 このように考えていて、もしかしての
もしかして本当に発生したら最悪ですが、
希望的観測も含めて、冷静に考えれば、
大地震が発生する確率は依然として
極めて低いのです。
 ですから、そのことを市場は冷静に
受け止めていて、南海トラフ地震の
注意報が発令された後も、シカゴ市場
の日経平均先物は12日の15時現在、
東京市場の9日の終値(35,025円)よりも
400円以上高い「35,455円」で推移して
います。

 そして、大地震さえ来なければ、ここ
までで考察したような先行きを想定
しながら、冷静に対処していけばよい
と考えています。

 6月の無料メルマガで、

「当面、秋までは、
『37,000円〜41,000円のボックス圏相場』
が続くと予想しています。」

と述べて、過去のデータを多角的に検証
しました。
 しかしながら、不幸にもブラックマンデー
が起こってしまい、日経平均株価は複雑
骨折をしてしましたので、このボックス圏
は下方に強い圧力を受けることになりました。

 ただ、今回の大暴落は、東京市場だけで
起こったことであり、2016年11月のトランプ
ショック型に似ていて、8月5日の暴落分は
1週間で暴落前に戻っています。
 ですから今後、大震災発生のような大きな
アクシデントがない限り、31,000円を割る
ことはなさそうですし、8月9日の終値の
「35,000円前後」が、ボックス圏の下値と
なり、ボックス圏の上値は「39,000円前後」、
すなわち大暴落前の水準辺りになるのでは
ないかと考えています。
 ですから、大暴落前の
「37,000円〜41,000円のボックス圏」
が2,000円程度、下方にシフトした、という
ようなものを想定しています。


<今回は以上です。>





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