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兜町大学教授の教え 無料メルマガ No.265(2024年9月12日配信)
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「市場参加者は、不安で臆病になっている」
今月のメルマガも、少し早めの12日に
掲載します。13日〜16日まで、東京で
勉強会があるからです。
[1] 市況展望(執筆日時:9月12日 21時)
8月5日のブラックマンデー以降、
東京市場のボラティリティが高いまま
ですし、円高とアメリカの景気後退を
受けて、非常に神経質な展開が続いて
います。
8月5日のブラックマンデーの負の
インパクトが強すぎたせいでしょうから
しかたがないのですが、市場参加者は、
先行きの色々な不安のせいで臆病に
なっている、という感触を持っています。
(1) 過去1ヵ月間を振り返ってみます
前回のこのメルマガの配信日の翌日
の8月13日から9月12日までの日経
平均株価の推移を見てみます。
8月13日(始値35,490円)から9月2日
までは、ほぼ一貫して戻り相場となり、
「39,080円」まで戻りました。暴落直前
の水準が「39,101円」(7月31日終値)
でしたから、暴落から1ヶ月で、一旦は
暴落前の水準に戻りました。
しかしながら、この戻りが一辺倒の
戻りであったことから、ごく自然な
成り行きとして、9月3日からは反動安
の動きが出始めました。
そして、かねてからの円高基調に、
エヌビディア株の急落が重なり、
9月4日には前日比で「1.638円安」
という大きな急落が発生しました。
「半導体バブル」が崩壊し始めた
といった様相です。
そこで腰折れした日経平均株価は
そのまま下落を続け、9日には一時
前日比で1,044円安の「35,247円」の
安値を付けました。
9日は、寄り付きから急落して、
この安値(35,247円)が付いたのが
午前9時49分で、そこからは大きく
戻って、9日は前日比で175円安の
「36,215円」で引けました。
これは、典型的な「コツン感」
が出た、という感触です。
(「コツン感」というのは、市場で
株価が底を打った時の表現で、底に
「コツン」と当たって跳ね返った
感じを表しています。
株価が「安値近辺で急激に下がり、
底を打った後に大きく戻る」といった
現象が出た時に、「コツン感」が
出た、と認識します。)
この時の安値である「35,247円」
というのは、ブラックマンデーの
8月5日の始値(35,249円)と、その
週の最終日である8月9日の始値
(35,272円)とほぼ同じ水準です。
これはすなわち、「ブラック
マンデーによる異常な株価水準を
除けば、この辺りが底値圏であって
しかりであろう」という水準なの
です。
植田ショックによって発生した
「異常なまでの安値」を度外視
すれば、この「35,247円」という
のが底値圏だと市場参加者が認識
している、ということがわかります。
9月1日に配信した「フーミー」
でも、私は「反動安は起こるで
あろうけれども、二番底は示現
しない」と予測しました。
今回の場合、もし「二番底」が
示現するとすれば、「31,500円
前後」までの下落が起こるという
ことになるわけですが、それは
起こらないであろうと予測して
きました。
今後も、想定外の事態が勃発
しない限り、「二番底」は示現
しないでしょうから、9月9日に
付いた「35,247円前後」が当面の
安値であると考えてよさそうです。
(2) 今後の日経平均株価はどう
なるのか?
そこで、今後の日経平均株価は
どうなるのかについて考えていき
ます。
それに当たっては、
<1> アメリカの利下げと為替
<2> 米中の景気後退
<3> 日本の政局の行方
<4> アメリカの大統領選の行方
といった要因を考慮に入れなければ
なりません。
前回のメルマガでは、
「急落前の39,000円前後の水準まで
戻るには、少なくとも3ヶ月程度、
長ければ半年以上の時間がかかる
でしょう」
と述べましたが、1ヶ月で戻り
ました。戻った直後に、また下落は
しましたが、これだけ短期的に元の
水準まで戻ったということは、8月
5日の下落が、いかに異常だったのか
が、改めて浮き彫りになったという
ことです。
ただし、ここから先は、上の<1>
から<4>の行方次第ですので、手放し
の楽観はできません。
それでは以下で、上の<1>から<4>
について、最新の情勢をふまえて
考えてみます。
<1> アメリカの利下げと為替
9月17日・18日のFOMCで利下げ
があるのは確実視されていますが、
その下げ幅とその後の動向に関心が
集まっています。
現在までのところでは、25bp(0.25%)
の利下げに留まるという予測が87%で、
50bp(0.50%)の利下げをするという
予測が13%のようです。
私自身も、25bpの利下げに留まると
予測しています。インフレの再燃にも
留意が必要なので、大きな利下げには
慎重になるはずだからです。
FRBの使命は「物価の安定」と
「雇用の安定」です。直近では、物価
の安定には一定の目処が立ったとして、
FRBは雇用の安定に軸足を移して
いますが、依然として、インフレの
再燃にも配慮しなければならないはず
ですので、9月の段階では、25bpの
利下げの可能性の方が高いと考えて
いるのです。(市場のコンセンサス
の根拠も、たぶん同じものでしょう。)
一番ありがちなのは、9月の利下げ
は25bpに留めておいて、次回のFOMC
(11月6日・7日)まで様子を見て、
「大統領選の直後は動きにくい」と
言われている中でも、必要であれば
11月にも25bp(または50bp)の利下げを
断行するといったところではないで
しょうか。
9月のFOMCでは、25bpの利下げ
までは市場に完全に織り込まれている
と考えられますが、もしかして50bpの
利下げとなった場合には、もう一段の
ドル安円高が進み、日経平均株価には
下押し圧力がかかると考えられます。
ドル円レートの予想は困難ですが、
これまでの推移と、今後アメリカが
利下げ姿勢を続けるであろうという
ことを織り込んで想定しますと、
今後は緩やかな円高トレンドになる
可能性が高そうですから、輸出企業
にとっては、一足先に冬の時代に入る
可能性が高そうです。
ただ、9月18日のFOMCで、
25bpの利下げになれば、一旦は
材料出尽くしとなりますので、
目先のところでは、これまでに
「140円台/ドル」まで円高に
振れた分の揺り戻しが起こること
も想定しておく必要はありそうです。
そうなれば、今月の後半は日経
平均株価にはプラス要因になります。
10月からは再び円高圧力が増大
しそうですが、大きなレンジとしては、
年内は最も円高になっても、
「135円/ドル±5円/ドル」
であれば、想定の範囲内といった
ところでしょう。
ただし、前回も述べましたように、
日米の金利差が想定以上に大きく
縮小すれば「130円/ドル」を割り
込むこともあり得ます。
ドル円相場は、かねてから「125円
/ドル」の水準が節目になっています
ので、それを超える円高は、普通に
考えて、ありそうもないと思います。
一方、それとは逆に日本でインフレ
が加速すれば、再び「160円/ドル」
の方向に向かうこともあり得ます。
また、トランプ候補が当選して、
アメリカでインフレ政策が想定され
れば、これも円安・ドル高要因です。
トランプ氏は「ドル安を望む」と
言いながらも、自身の政策はドル高
を誘発するものばかりです。
9月11日の日経平均株価の終値は、
前日比539円安で、比較的大きく
下がりましたが、この下落の主な
要因は円高であろうと思われます。
(一時、1ドル=140円台、1ユーロ
=155円台になっていました。)
円高は輸出企業の採算に負の影響
をもたらすだけではなく、外国人
投資家の買いを細らせ、売りを膨らま
せる効果を持っていますので、日本株
全体に対しても下押し圧力となります。
年末に向けても、強い円高局面が
続くようであれば、日経平均のEPS
の停滞と外国人投資家の需給悪化を
通じて、日経平均株価のアタマが
抑えられる可能性があります。
<2> 米中の景気後退
アメリカの景気後退は、これからも
ある程度進むでしょうけれども、市場
には、すでにかなりの程度まで織り
込まれてきているようです。
他方で、FRBはソフトランディング
政策は、やや後手に回った感はあります
が、比較的上手くいっていますので、
NYダウは高水準を維持しています。
アメリカの景気後退もさりながら、
長引いている中国の景気後退の方も
心配なレベルになっています。
上海総合指数が、1つ目の下値の
メドである「2,850ポイント」を割って
きています。これが2つ目の下値の
メドである「2,650ポイント」を割って
きたら要注意です。
9月12日の時点における日経平均の
EPSの値は「2,454円」で、今のところ
非常に高い水準を維持しています。
しかしながら、米中が一定の景気後退
に向かうということを想定すると、肝心
の「将来のEPSの値」は減少方向になる
ことを想定せざるを得ないでしょう。
9月11日までの時点で日経平均株価
の推移が芳しくなかったのは、こういった
「先行きに対する懸念」が重しになって
いるからであろうと考えています。
<3> 日本の政局の行方
自民党総裁が誰になるのかもさり
ながら、新しい総裁が誕生した時は
千載一遇のチャンスですから、総裁が
誰になったとしても、早期の衆院の
解散総選挙があるでしょう。
このことは、日経平均株価にとって
は大きなプラス材料です。
現状では、インフレとこの要因
くらいしか日経平均株価にとって
プラス材料になることは見当たり
ませんが、このプラス要因が、円高
のマイナス要因をどの程度相殺
できるかが、10月に向けての注目点
です。
<4> アメリカの大統領選の行方
依然として、マスコミの報道は、
「ハリス優勢」に傾いています。
アメリカの巨大資本家にとって、
トランプ候補は「不都合な存在」
だからです。
大統領候補が狙撃事件に遭うのも、
民主党の候補が途中で入れ替わる
のも、異例中の異例です。
今回の大統領選は異例なことが
多いですから、大統領選挙の結果
を予測するのは非常に困難です。
私は、依然として、「普通に考え
れば、トランプ勝利の可能性が高い」
と考えていますが、結果がどうなる
のかは、現時点ではどうやら五分
五分のようです。
9月10日のテレビ討論会では、
トランプ氏が、やや劣勢になって
いましたが、主宰したテレビ局が
民主党寄りであったことも少なからず
影響していたようです。
アメリカの大統領選は、テレビ
討論会の勝敗よりも、「激戦州」の
勝敗が雌雄を決すると言われて
います。
そして、9月10日時点の「激戦州」
の集計結果では、両候補共に互角の
状況になっているようですので、
どちらが当選するかは、全くよめません。
現時点までの情勢を考えますと、
トランプ候補が当選すれば、やはり
株価にはプラスに作用するでしょう。
そして、ハリス候補が当選すれば、
民主党が続投で、結果的には、現・
副大統領が大統領に格上げになった
というだけのことですので、日経平均
株価に対する影響はプラスマイナス
ゼロといったところでしょう。
<5> 日経平均株価のあるべき水準
さて、今回も「日経平均株価の
あるべき水準」について考えてみます。
まずは、前回の内容をおさらいして
おきましょう。
前回は、日経平均株価の「あるべき
水準」について
・PERの面から
・PBRの面から
・外国人投資家の視点から
の考察を加えました。そこでは、
・PERのあるべき水準を「16.67倍」
と想定し、第2四半期における
日経平均のEPSの予想値を「2,260円」
と想定して、日経平均株価のある
べき水準を、「37,672円」としました。
・PBRの面からは、大暴落前の7ヵ月間
の日経平均のROEの平均値である
「8.9%」に基づいて、日経平均のPBR
の値としては、だいぶ控えめな
「1.29倍」を採択した場合の日経平均
株価のあるべき水準を、「36,120円」
としました。
また、日経平均のPBRの値を、もう
少し上の「1.39倍」とした場合の日経
平均株価のあるべき水準は「38,920円」
となりました。
・外国人投資家の視点からは、ドル円の
想定為替レートを「145円/ドル」
(または「150円/ドル」)として、
ドル建ての日経平均株価のチャート
から、ドル建ての日経平均株価の
あるべき水準を「250ドル前後」と
しました。
それらを基にして、外国人投資家の
視点からのあるべき水準を、
250ドル × 145円/ドル = 「36,250円」
または、
250ドル × 150円/ドル = 「37,500円」
としました。
そして、<まとめ>として、日経平均
株価のあるべき水準を、
「控えめにみて、36,120円」から
「標準的にみて、38,920円」のレンジに
収斂していくとしました。
また、このレンジの中庸を得た値の
「37,500円前後」が妥当な水準であろう
と結論付けました。
さて今回は、PERの値・PBRの値・
ROEの値について、前回とは異なる視点
から考察を加えます。
それは「株主資本コストの妥当な水準」
とは、どういったものか?という視点です。
以下の説明は、ビジネススクールの
「ファイナンス」という科目で、基礎的
な説明として用いられるものなのですが、
それをできるだけ平易に説明します。
これまでにも、このメルマガで何度も
説明してきたことなのですが、「株式の
益回り」というのは、
無リスク資産の利回り+リスクプレミアム
で算出されます。そして、このことこそが、
「株主資本コスト」と同じことなのです。
「株主資本コスト」とは、「株主が期待
する利回り」ということなのです。
(「株式の益回り」は、「PERの逆数」
でもあります。)
では、この「無リスク資産の利回り」
とは何かといいますと、通常は「長期国債
の利回り」を指します。これは現時点では、
日本−−− 0.8%〜1.0%
米国−−− 3.6%〜4.0%
で推移しています。
次に、「リスクプレミアム」とは何か
といいますと、「リスクのある資産(=
ファイナンスの世界では、『危ない』
資産という意味ではなく、『価格が変動
する』資産という意味)」を保有する
場合に、投資家が一般的に期待している、
追加的な利回りのことです。
この「リスクプレミアム」は、どの
くらいの水準が妥当なのかは、国により、
また時期によっても異なりますので、
一概には何とも言えませんが、現時点
では、
日本−−− 5%程度
米国−−− 1%程度
であろうと考えられています。
そして、このリスクプレミアムの水準が
なぜ日本は「5%程度」で、米国は「1%
程度」と大きな開きがあるのかについては
諸説がありますが、私は、
日本市場−−− 日本人はリスクを嫌うから、
そして外国人は、日本株への投資
には為替リスクも伴うので、リスク
プレミアムを大きめに期待する
のに対して、
米国市場−−− 恒常的な値上がりへの期待
が大きいため、市場参加者が「リスク
選好型」(つまり、「結果的には、
値上がりするのなら、価格が変動
するのは、むしろ好ましい」という
考え方)に偏りがちになる
ということが理由になっているのではないか
と考えています。
「リスクプレミアム」というのは、要は
リスクを好むのか好まないのかによる指数で、
「リスク選好型」の人は、リスクプレミアム
を低めに見積もりますし、その逆に「リスク
回避型」の人は、リスクプレミアムを高めに
見積もります。
以上のようなことから、日米の「株式の
益回り」の値(=株主資本コスト)は、
それぞれ
日本−−− 約1%+5%程度=6%程度
米国−−− 約4%+1%程度=5%程度
となっている、というわけです。
そして、この株主資本コストの逆数が
PERの値なので、
日本市場のPERの値 −−− 約16.67倍程度
米国市場のPERの値 −−− 約20.00倍程度
となると考えれば、日本市場における年初
から今日までのPERの平均値は「16.30倍」
ですから、日本市場については、現状とほぼ
整合的です。
それに対して、米国市場のPERの値は、
9月11日現在、「25.38倍」なので、かなり
買われすぎです。
PERの値が「25.38倍」ということは、
「株式の益回り」は、「3.94%」と算出
されます。
米国市場の長期金利が、現在「3.66%」
であることを考慮に入れても、
米国−−− 3.66% + 0.28% = 3.94%
ということになり、リスクプレミアムの
値が、さすがに小さすぎます。
このことは、
・NY市場の参加者が、よほど「リスク
選好型」なのか、
・NYダウが近いうちに急落するのか
のいずれかを想起させるものです。
ただ、アメリカがこれから利下げに
向かうので、安全資産の利回りが
「3.0%くらいまで低下する」
ということをすでに織り込んでいると
すれば、
米国−−− 約3.0%+1%程度=4%程度
ということで、米国市場のPERの値が、
9月11日現在、「25.38倍」なのも合理的
な説明はつきます。
さて、日本に目を転じます。
上のように考えると、少なくとも、日本
の株主資本コストは、「約6%程度が
妥当である」ということがわかりました。
そして、「ファイナンス」の理論では、
「株主資本コストを上回る資本効率を創出
できない企業のPBRの値は1.0倍を割る」
(=逆に言えば「株主資本コストを上回る
資本効率を創出できる企業のPBRの値は
1.0倍を超える」)
と考えられています。
ここで、「資本効率」の概念が出て
きましたが、これこそが「ROEの値」
そのものです。ROEの値とは、資本効率
を示す指標ですから。
すると、9月12日の時点における日経
平均のROEの値が「8.7%」なので、
理論的に妥当な水準の日経平均のPBRの
値は、「1.45倍」ということになります。
8.7% ÷ 6.0% = 1.45 だからです。
このことは、今年に入ってから8ヶ月
余りの日経平均のPBRの値の平均値が、
「1.45倍」であるということとピッタリ
符合します。
今回は経営大学院並みの内容になって
おりますので、チョット難しかったかも
しれませんが、このメルマガでこれまで
にもお伝えしてきたことと同じ内容です。
それを、理論のバックボーンも合わせて
説明しましたので、やや難解に思われた
かもしれませんが「チョット難しかった」
と思われた方は、もう一度読み返して
みて下さい。
わかると面白いですから!(微笑)
そして、今回は、
「電子レンジでチンすると、なぜモノが
熱くなるのか」
について、その原理に立ち返って、電子
工学的な説明を付与したようなかんじ
ですので、小難しいかんじですが、電子
レンジも、なぜ熱くなるのかよりも、
「それを使って、いかに美味しい料理を
作れるか」が大事ですよね。
それと同じように、株式投資も、なぜ
PERの値・PBRの値・ROEの値の
値の妥当な水準がこうなるのかについて、
ファイナンス理論的な説明を知っておく
のも大事ですが、それよりも大事なこと
は、
「今の株価水準が安いのか高いのかを
しっかりと認識すること」
であり、それによって、
「いかに適切な投資活動ができるか」
です。
<6> なぜ「あるべき水準」より低いのか
以上のようなことから、依然として
日経平均株価の「あるべき水準」は、
9月11日の終値の「35,619円」よりは
高いところにあるはずです。
(ここまでは9月11日に下書きをして
ありました。9月12日の日経平均株価
の終値は「36,833円」なので、やはり
すぐに水準訂正になった、といった
ところでしょう。)
しかし、実際には現時点でも、まだ
「あるべき水準(上では概ね「37,500円」
としました)」より低いところに位置
しています。
そこで以下では、なぜ「あるべき水準」
より低いということが起こるのかについて
考えていきます。
9月12日の諸データは次のとおりです。
<1> EPS −−− 2,454円
<2> BPS −−− 28,117円
<3> ドル円 −− 142.7円
<1> PERの面から
PERの面からの単純計算では、日経
平均株価の「あるべき水準」は、
2,454円 × 16.67 = 40,908円
となります。
なぜこの「あるべき水準」よりも
1割くらい日経平均株価が低いのか
は、ひとつには、市場参加者が、
「今後、EPSの値が1割くらい下がる」
と予想しているから、ということが
挙げられます。
その根拠としては、現在進行中の
円高が大きいと考えられます。
(9月12日の日経平均株価が急騰した
のは、円高が一服したことが大きな
理由でしょう。また、11日のNY市場
が高かったことも、日経平均株価を
押し上げました。)
この先、11月中旬に出揃う第2
四半期決算で、あまり大きな業績の
下方修正が起こらなければ、年末に
向けて、日経平均株価は4万円回復
に向かうでしょう。それが「理論的
に妥当な、あるべき水準」だからです。
一方、市場の予想通り、の業績の
下方修正が起これば、日経平均株価
は4万円回復には至らず、現水準から
「39,000円まで」のボックス圏が
続くでしょう。
また、なぜ上の「あるべき水準」
(40,908円)よりも1割くらい日経
平均株価が低いのかのもうひとつ
の理由は、日銀の利上げ姿勢です。
「利上げになると株価が下がる」と
いうことの根拠には、今回、上で
説明した「株式の益回り」が関係
しています。
上では、日本の「株式の益回り」を
日本−−− 約1%+5%程度=6%程度
と説明しましたが、たとえば年内に
日銀が「+0.5%」の利上げをすると
しますと、第1項の安全資産の利回り
である「約1%」が「約1.5%」になり
ますので、日本の「株式の益回り」が
約1.5% + 5%程度 = 6.5%程度
となります。
そして、これの逆数が「妥当なPER
の値」ですから、妥当なPERの値は、
「約15.3倍」ということになるのです。
そうしますと、仮に企業業績(EPSの値)
が「2,454円」のままだとしても、日経
平均株価の「あるべき水準」は、
2,454円 × 15.3 = 37,546円
という、4万円よりは低い水準に
留まります。
これに、さらに業績の下方修正が
5%程度起こると想定すると、
37,546円 × 0.95 = 35,669円
となって、概ね9月11日の株価水準
(35,619円)も説明できてしまいます。
ということは、「EPSの動向」と
「金利の見通し」次第で、日経平均
株価の「あるべき水準」は、上にも
下にも説明できてしまうのです。
また、下の<3>で述べるように、
為替の動向によっても、日経平均
株価の「あるべき水準」は、左右
されます。
<2> PBRの面から
そういった中で、かなり安定して
いる指標は、日経平均のBPSの値です。
日経平均のBPSの値というのは、
リーマンショック級の世界的な大不況
に見舞われない限り、減少することは
ほぼないからです。
しかしながら、BPSの値自体はかなり
安定していますが、PBRの値はやはり
ブレます。
9月12日における日経平均のBPSの
値は、「28,117円」です。
そして、今回の説明では、理論的な
あるべきPBRの水準は「1.45倍」なの
ですが、これも「安全資産の利回り」
と「EPSの水準」によって変化します。
「安全資産の利回り」と「EPSの水準」
の変化によって、上にお示しした算式
の
8.7% ÷ 6.0%
の値が変わるからです。
もし仮に、EPSの値が5%減少すれば、
ROEの値である「8.7%」の5%減少
して、「8.265%」に減りますし、
「+0.5%」の利上げが起これば、株式
の益回りの値である「6.0%」は「6.5%」
になります。
そうすると、妥当なPBRの水準は、
8.265% ÷ 6.5% = 1.27
となって、9月11日のPBRの値である
「1.28倍」(日経平均株価は「35,619円」)
は、ほぼ妥当ということになります。
このようにして、現在の低い株価
水準も、理論的には妥当な説明が可能
なのですが、ここで述べたように、
現在の低めの日経平均株価の水準が妥当
であるという説明の背後には、「企業
業績の悪化」と「利上げ」が織り込まれ
ているわけです。
近い将来に、こういった悲観的なこと
が現実になった場合には、このところの
安値圏である「35,300円〜35.600円」
という株価水準は妥当だということに
なりますので、上値はあまり期待でき
ないということになりますが、先行き
の現実が、これほどには悲観的なもので
なければ、上値の余地も充分にある、
ということになります。
なにしろ、企業業績の悪化や利上げが
起こらなければ、日経平均株価の「ある
べき水準」は、標準的に計算しても
「37,500円」くらいですし、4万円回復
も想定の範囲内ですから。
<3> ドル円の面から
9月11日に、ドル円相場は、1ドル
= 140.7円まで円高が進みました。
これは8月5日のブラックマンデー
の時よりも少し高い水準の円高ですので、
日経平均株価にもかなりの下落圧力と
なって、のしかかっていると考えられ
ます。
1ドル = 141円で換算しますと、
9月11日の日経平均株価の終値の
「35,619円」は「252.61ドル」と
なりますので、年初から今日までの
ちょうど真ん中の水準です。
(年初から今日までのドル建ての
日経平均株価は「228ドル〜273ドル」
です。)
ですから、ドル建てで考えている
外国人投資家から観れば、9月11日
の日経平均株価の水準は、「低くも
高くもない」ということになります。
2021年1月以降のドル建て日経
平均株価の週足チャートを見ますと、
「265ドル」のところに高値の抵抗
線がありますので、1ドル = 141円
で換算しますと、「37,365円」が
高値ということになりますし、
1ドル = 145円で換算しますと、
「38,425円」が高値ということに
なります。
また、今年1月以降のドル建て
日経平均株価の週足チャートを
見ますと、8月5日のブラック
マンデーの株価を度外視しすれば、
「240ドル」のところに安値の抵抗
線がありますので、1ドル = 141円
で換算しますと、「33,840円」が
安値ということになりますし、
1ドル = 145円で換算しますと、
「34,800円」が安値ということに
なります。
こうして計算してみますと、為替
のインパクトは、かなり大きいと
いうことが、改めて浮き彫りに
なります。
<短いまとめ>
当面のところでは、日経平均株価
のボックス圏は、
「35,200円〜39,100円」
といったところでしょう。
多角的な視点から、日経平均株価
の標準的な水準を割り出してみますと、
「37,500円前後」というのが現時点
における「あるべき水準」という
ことになります。
ボラティリティが高い相場が
続いていますが、「37,500円前後」
よりも低いところは「売られすぎ」、
それよりも高いところでは「買われ
すぎ」と考えるのが、当面は妥当な
ところではないかと考えています。
<今回は以上です。>
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