兜町大学教授の教え 無料メルマガ No.266 (2024年10月13日)


「衆院選までは株高だが、三尊にもなっている」


[1] 市況展望(執筆日時:10月13日 18時)


(1) 過去1ヵ月間を振り返ってみます

 9月9日に「35,247円」の安値を付けた
日経平均株価は、9月18日までは「37,000円
以下」の低位で推移しましたが、19日からは
上場を始め、27日の自民党総裁背までは
上昇基調を維持しました。
 9月の26日と27日(特に27日の後場)は、
いわゆる「高市期待」による株価上昇が
起こり、日経平均株価は「39,829円」
まで上昇して高値引けとなりました。

 しかし、同日の引け後、15時20分過ぎに、
総裁が石破氏になるとわかると、シカゴ
市場の日経平均先物は急降下し、翌営業日
(9月30日)の日本市場は前日比1,910円安と、
大きく売られました。
 いわゆる「石破ショック」です。30日の
終値は「37,919円」でした。

 しかし、8月には巨大な「植田ショック」
が発生していますので、それに比べれば
たいしたことはないという見方もできます
し、「高市期待」で上昇する前の9月25日
の終値が「37,870円」であることを考え
れば、石破ショックは、「高市期待の剥落」
であったとも解釈できます。

 そして、石破氏が総裁選前とは手のひら
を返して、政治経済の運営について、
「従来路線を踏襲する」という意思を
明確に表明し始めたため、日経平均株価は
10月2日の「37,651円」を尻目に、上昇に
転じました。
 この上昇には、「衆院選の選挙相場」が
織り込まれています。
 衆院選の選挙相場について、以下で詳述
していきます。


(2) 衆院選までは株高

 今月は27日に衆院選がありますので、25日
金曜日または、その2〜3日前までは、日経
平均株価には上昇圧力がかかります。
 衆院選の前には、国会議員がリップサービス
も含めて、経済に前向きな姿勢を見せること
が多いからです。
 石破総理が、総裁選前とはかなり異なる
トーンで、金融所得課税などに関してマイルド
な姿勢になったのも、支持率を上げて、政権を
維持したいからというのと、衆院選があるから
というのが大きな理由です。

(こういった「衆院選前には株高が起こりやすい」
というのを「アノマリー」といいます。
 「アノマリー」とは、季節要因やイベント等が
原因で、市場の価格形成が変化することを意味
します。)

 そこで、ここでは「衆院選前には株高が起こり
やすい」というのを過去のデータで検証してみます。
 過去30年ほどを遡ると、衆議院の解散総選挙は、
1993年6月からの31年間で10回あり、今回が11回目
です。
 以下では、それについてまとめてみました。

 衆院解散総選挙の日経平均株価への影響は、
解散の日の概ね10日前くらいから織り込まれ
始めると考えられますので、以下では「解散日
の約10日前」(「約」というのは、10日前が
営業日ではない場合に、その前後の日の株価
を採択したためです)の日経平均株価と、
「投票直前営業日」の日経平均株価を比較
しました。

 なお、投票直前の営業日の横のカッコ書きの
数字は、解散日からの日数を示しています。
 日経平均株価の値は、小数点以下を切り捨てて
表記しました。(敬称略)

   解散の日 解散  解散日の	 (A)の日経  投票直前  投票直前営業日 騰落率
       政権  約10日前(A)  平均株価  の営業日  の日経平均株価
 1 '93/ 6/18 宮沢  '93/ 6/ 8   20,575 '93/ 7/16 (28)   20,331   -1.18%	
 2 '96/ 9/27 橋本  '96/ 9/17   21,310 '96/10/18 (21)	21,612   1.42%
 3 '00/ 6/ 2 森   '00/ 5/23   16,318 '00/ 6/23 (21)	16,963      3.95%
 4 '03/10/10 小泉1 '03/ 9/30   10,219 '03/11/ 7 (28)	10,628   4.01%
 5 '05/ 8/ 8 小泉2 '05/ 7/29   11,899 '05/ 9/ 9 (32)	12,692   6.66%
 6 '09/ 7/21 麻生   '09/ 7/11    9,050 '09/ 8/28 (38)	10,543   16.49%
 7 '12/11/16 野田  '12/11/ 6    8,975 '12/12/14 (28)	 9,737   8.49%
 8 '14/11/21 安部1 '14/11/11   17,124 '14/12/12 (21)	17,371   1.45%
 9 '17/ 9/28 安部2 '17/ 9/18   20,299 '17/10/20 (22)	21,457   5.71%
10 '21/10/14 岸田  '21/10/ 4   28,444 '21/10/29 (15)	28,892   1.57%
11 '24/10/ 9 石破  '24/10/ 1   38,651 '24/10/25 (16)  以下で算出


 以上のように、1993年6月の宮沢政権の
解散時を除いて、騰落率は全てプラスです。
 ですから、やはり「衆院選前には株高が
起こりやすい」という「アノマリー」は、
どうやらありそうです。

 では、今回はどのくらいまで上がるので
しょうか。
 以下では、今回の投票直前営業日である
10月25日(または、その2〜3日前)に
付くであろう高値を算出してみます。
それを算出するに当たっては、ごく初歩的
な統計処理の技法を用います。
(ごく初歩的な統計処理の技法として、
1.ハズレ値を除外する
2.日数を考慮に入れる
という2つだけを行います。
(統計学上、「ハズレ値」とは、サンプル
データの中で極端に高い値と極端に低い値
のことをいい、統計処理の時点で、それら
は除外することとされています。)

 まず、騰落率の「ハズレ値」は「-1.18%」
と「16.49%」ですので、これらを除外します。

 次に、残った8つのデータの騰落率を日数
で割ります。(日数は、カッコ書きの数字
です。)

 1 宮沢  -1.18% ハズレ値	
 2 橋本  1.42% ÷ 21 = 0.06762%
 3 森   3.95% ÷ 21 = 0.18809%
 4 小泉1 4.01% ÷ 28 = 0.14321%
 5 小泉2 6.66% ÷ 32 = 0.20812%
 6 麻生  16.49% ハズレ値
 7 野田  8.49% ÷ 28 = 0.30321%
 8 安部1 1.45% ÷ 21 = 0.06904%
 9 安部2 5.71% ÷ 22 = 0.25954%
10 岸田  1.57% ÷ 15 = 0.10466%

 さて、これらの8つの値の平均値を取り、
それを16倍した値が、今回の期待上昇率です。
今回の日数が「16日」なので、16倍するの
です。
 これらの8つの値の平均値は、
「0.16793%」で、その16倍は「2.687%」です。

 すなわち、表示統計的には、今回は
'24/10/ 1の「38,651円」から「2.687%」の
上昇が期待できるということなのです。
(「表示統計」とは、こういった単純で算術
的な統計手法を用いた統計処理のことをいい
ます。)

 ということは、「39.700円前後」までの
上昇が期待できる、ということになります。
(38,651円 × 1.02687 = 39.690円)

 ただし、これは表示統計的に算出した
値ですので、これに「定性的な要因」が
加わったものが、実際の値になるのです。

 上のデータで「高い方のハズレ値」は、
「麻生政権解散時」の「政権交代への期待」
が込められていたでしょうし、その次に
高い値は、「野田政権解散時」の「政権交代
(大政奉還)への期待」が込められていた
でしょう。
 こういった「期待」が「定性的な要因」
となるのです。

 今回は、どのくらいの「期待」が込め
られるのかはわかりかねますので、算術
平均的な値を予想値としました。

 結論としましては、「39.700円前後」
までの上昇が期待できる、というわけ
ですが、すでに10月10日の時点で
「39.616円」までは上がっていますので、
「高市期待」で付けた「39.829円」まで
の上昇があるかどうか、また、それ以上
の「4万円乗せ」があるかどうかという
のは、石破政権に国民がどのくらい期待
しているのかにかかっていると考えて
います。

 10月12日未明のNYダウの終値は
「42,863ドル」で、それに連動して
シカゴ市場の日経平均先物の値も一時
「39,950円」まで上がっています。
(終値は「39,760円」。)
 シカゴ市場の日経平均先物の値は過剰に
反応することが多いので、ある程度は割り
引いて考える必要はありますが、9月27日
の東京市場における「高市期待の高値」を
少し超えていることは注目に値します。

 石破政権への期待が先行すれば、4万円
乗せもあり得そうです。
 上のデータの分析でも、日数を勘案せずに、
単純計算で高値の予想地を算出しましたら、
「40,250円」という値が導出されました。


(3) 三尊にもなっている

 ただし、選挙後は要注意です。
「自民党が勝てば、選挙後も株価は上がる」
という言説をよく耳にしますが、政権与党
が選挙で勝てば株価が上がるというのは、
その時点における日経平均株価の絶対値や、
その他の諸要因にもよりますので、一概には
何とも言えません。

 今回の場合は、

<1> 日経平均株価の絶対値が高いこと
<2> 選挙後に、第2四半期決算が本格化
  すること
<3> すぐ後に、米大統領選があること

 そして、何と言っても

<4> 日経平均株価の週足チャートが
  「三尊」になっていること

を考慮に入れますと、選挙後は要注意
であると考えています。

 たとえ、選挙後に日経平均株価が
目立って上がるとしても、それは衆院選の
選挙結果が原因である、というよりは、
ここに箇条書きにした諸要因によるところ
が大きくなるだろうと考えています。

 <1>と<4>の要因は、株価の調整(下落)
を意味します。<2>と<3>の要因は、結果
がどうなるかは、現時点では判然としません。

 日経平均株価が、選挙後にも伸びるか
どうかは、

・企業業績次第
・為替の動向次第
・大統領選挙の結果次第

ですから、なんともいえないのですが、
今後の円高を懸念して、輸出企業が
想定為替レートを控えめに変更したり
すると、やや厳しいかもしれません。

 なおここで、「日経平均株価の週足
チャートが三尊になっている」とは
どういうことかを簡潔に説明します。

 「三尊」とは英語で "Triple Top" 
といいまして、「高値が3つ並ぶ状態」
のことを意味します。
 ここで、日経平均株価の過去1年分
の週足チャートをご覧下さい。

 日経平均株価は2023年3月下旬に
「41,087円」の高値を付けています。
それから調整が入って、2024年7月
中旬に「42,426円」の最高値を付けて
います。

 そして、これから「3つ目の高値」
を付けにいく、(または、9月27日に
すでに付いた)ということがいえそう
です。
 高市期待で9月27日に付いた高値の
「39,829円」を10月15日以降に抜けば、
それが「3つ目の高値」になりますし、
もし「39,829円」を10月15日以降に
抜かなければ、「39,829円」が「3つ
目の高値」になります。

 すなわち、近日中に「39,829円」を
抜いたとしても、テクニカル分析的
には、それが「3つ目の高値」に
なって、いつ下落を開始しても
おかしくはない状況にある、という
ことには充分に留意しておく必要が
あります。

 それとは逆に、衆院選の前または
後に、日経平均株価が「41,087円」を
明確に上回る展開になったら、「三尊」
は崩れますので、むしろ、「三尊の
形成による下落」の逆で、「右肩上がり」
の相場展開になることが考えられます。
 そうなるかどうかは、第2四半期
決算における業績次第です。


(4) 10月11日の諸データ

 10月11日の諸データは次のとおりです。

<1> 日経平均株価 −− 39,605円
<2> EPS −−−−−−− 2,511円
<3> PER −−−−−−− 15.77倍
<4> BPS −−−−−−  28,700円
<5> PBR −−−−−−−  1.38倍
<6> ドル円 −−−−−  149.1円


<1> PERの面から
 PERの面からの単純計算では、日経
平均株価の「あるべき水準」は、

 2,511円 × 16.67 = 41,858円

となります。
 PERの水準を「16.0倍」としても、

 2,511円 × 16.0 = 40,176円

となりますので、企業収益の面からは、
日経平均株価は4万円を超えても
おかしくはないということがわかります。


<2> PBRの面から
 10月11日における日経平均のBPSの値は、
「28,700円」です。
 そして、前回の説明では、理論的な
あるべきPBRの水準は「1.45倍」としました
が、これは「安全資産の利回り」と
「EPSの水準」によって変化します。
 ですから、PBRのあるべき水準は一概に
「1.45倍」とは言えないのですが、今年に
入ってからの9ヵ月半の間のPBRの値の
平均値は「1.44倍」なので、やはり今の
ところは、その水準辺りがPBRのあるべき
水準であると考えてよさそうです。

 そうしますと、

 28,700円 × 1.44 = 41,328円

となりますので、やはり日経平均株価は
4万円を超えてもおかしくはない、という
ことになります。


<短いまとめ>

 当面のところ、10月25日までは選挙相場
によって、日経平均株価は、

「39,700円前後〜40,250円」

くらいまでの上昇が見込まれます。
 12日のシカゴ市場の日経平均先物の値の
最高値が、すでに「39,950円」になっている
ことからも、この予想値は、ほぼ的を射る
ものであろうと考えています。

 ただし、日経平均株価のチャートの形状
が「三尊」を形成していることから、
衆院選挙後の下落には警戒が必要です。

 そして、衆院選挙後は、市場の関心事が、

・日本の企業業績
・ドル円の為替相場
・アメリカ大統領選

に移っていきます。

 これらの結果次第で、日経平均株価は
「三尊」を形成して、比較的大きな下落に
なるか、企業業績の好調を反映して、
「三尊」を上に抜けて、「41,000円超え」
へ向かうかの方向性が見えてくることに
なるでしょう。

 いずれにしましても、10月25日までは
上昇基調が維持されるでしょう。そして、
それ以降は、どちらに振れるのかはわかり
ません。
 そういった場合には、衆院選挙前の高値
圏で、トントンかプラスのものは一旦
手じまいしておくのが無難です。



<今回は以上です。>





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